こんにちは。
台東区上野で、借地権・底地と不動産相続の整理をお手伝いしている、株式会社ユー不動産コンサルタントの脇保雄麻です。

今回は、私が独立当初から抱いてきた仕事への想いと、2018年の借地権相談を通じて、その初心を取り戻した出来事についてお話しします。

この出来事は、「家族軸」そのものの原体験ではありませんが、現在大切にしている仕事の姿勢を、実務の中で改めて確認した転機となりました。

取引額ではなく、目の前の人が抱える問題の重さに向き合うと決めた日

私がまだ大手不動産会社に勤めていたころの話です。
不動産売買仲介では、取引額に応じて仲介手数料が変わるため、大きな案件ほど評価されやすい面があります。私が勤務していた会社でも、取引額や売上数字が重要な評価指標となっていました。

しかし、営業として働く中で、私は大きな違和感を拭えずにいました。
そんな折、競売の危機に瀕したあるお客様の任意売却を担当することになります。隣地との境界も曖昧で、建て替えも難しい困難な物件でしたが、現場に何度も足を運び、関係者との調整を粘り強く重ねて無事に解決へ導くことができました。

引き渡しから約1か月後、お客様から一通のお手紙をいただきました。

「今は落着いて家族と一緒に過ごしております。脇保さんに感謝しております」

その言葉を読んだ瞬間、胸の奥から熱いものが込み上げました。

「私が本当に大切にしたいのは、取引額の大小ではなく、目の前の人が抱える問題の重さに向き合うことだ」

「大手の枠にとらわれず、お客様のご家族に本気で寄り添うコンサルティングがしたい」という強い決意のもと、私は独立を果たしました。

現場から離れ、仕事の目的を見失いかけた

独立後、事業を広げようとしていた時期があります。

パートナーとともに組織づくりを進め、私自身がお客様と直接話す機会は次第に減っていきました。

経営に専念すること自体が間違いだったわけではありません。

ただ、組織を動かすことに意識が向く中で、独立したときに大切にしていた「目の前のお客様に向き合う」という感覚が薄れていたのだと思います。

2018年、事業の進め方を見直し、一人で再スタートすることになりました。

「自分は、何のために独立したのだろう」

そう考えていたとき、会社員時代のお客様から一本の電話をいただきました。

「地主さんともめたくない」というご相談

相談は、入院中のご親族が所有する借地権についてでした。

今後の生活に備えて借地権を売却したいものの、地主さんから第三者への売却について承諾を得られず、話が進まないという状況でした。

借地権が土地賃借権の場合、第三者へ譲渡するには、原則として地主さんの承諾が必要です。承諾が得られないときは、一定の要件のもと、裁判所に承諾に代わる許可を求める借地非訟手続があります。

ただ、ご本人が大切にしていたのは、売却を成立させることだけではありませんでした。

「地主さんとは、もめたくない。できるだけ穏やかに解決してほしい」

この言葉を聞き、私は法的手続を含めた選択肢を確認したうえで、まずは地主さんとの話し合いによる解決を目指すことにしました。

何をするかだけでなく、どの順番で進めるか

地主さんにも、第三者への売却をすぐには承諾できない事情がありました。

一方的に承諾を求めるのではなく、ご本人の状況や希望を伝えながら、地主さんの考えも確認しました。

何度も話し合いを重ね、約3か月後、地主さんに建物を買い取っていただき、借地関係を終了する条件をまとめることができました。

契約後、入院中のご親族へ報告に伺うと、涙を流しながら、

「今まで、ありがとうね」

と言ってくださいました。

その姿を見た瞬間、会社員時代に「不動産の仕事を一生続けていきたい」と感じたときの記憶がよみがえりました。

お客様の涙が、迷っていた私を仕事の原点へ戻してくれたのです。

「人軸」と「家族軸」

イイタンのインタビューを受けた理由の一つに、「どの会社に頼むかだけでなく、誰に頼むかを選べるようにする」という人軸の考え方への共感がありました。

※この当時のインタビューや想いについて、不動産専門メディア「イイタン」でも取材していただきました。
▶ 脇保雄麻のインタビュー記事(イイタン)はこちら

会社の規模や知名度だけでなく、担当する人が何を大切にしているかを知ることも、相談先を選ぶうえで重要だと思います。

一方、現在私が掲げている「家族軸」は、相談を受けた後、何を基準に選択肢を整理するかという考え方です。

家族軸は、ご家族全員の希望をそのまま実現することではありません。

遺す人が大切にしたいこと、受け継ぐ人の暮らしや管理負担、そして不動産の権利・価値・収支・期限を確認し、何を優先するかを整理することです。

地主と借地人の間にも、それぞれの事情と、これまで積み重ねてきた関係があります。

どちらか一方の正しさを押し通すのではなく、双方の事情を確認し、選択肢と話し合う順番を整える。今回の借地権のご相談は、その大切さを改めて教えてくれました。

初心は変わらず、仕事の方法は深まった

「目の前のお客様に喜ばれる仕事がしたい」

独立当初から、この想いは変わっていません。

独立当初は、まず自分が動き、目の前の問題を解決まで導くことを何より大切にしていました。現在はそれに加えて、想いだけで結論を急がず、不動産の事実と現実を確認し、選択肢を比較し、誰に何をどの順番で話すかまで設計することを大切にしています。

不動産を売ることが、必ずしも唯一の解決ではありません。

一番高く売ることだけが、そのご家族にとっての正解とも限りません。

想いと現実の両方を整理し、その方々が後から振り返ったときに納得できる選択を一緒に考える。

これからも私は、不動産の職人として、一つひとつのご相談に向き合い続けたいと思います。

借地権・底地や相続不動産について、「売るべきか、残すべきか」「誰に、どの順番で話せばよいか」が決まっていない段階でもご相談いただけます。
まずは現在の状況と、大切にしたいことから整理します。