借地権付きの建物に住んでいて、「老朽化してきたし、契約期間も残り少ないから、売らずに地主に返すしかない」と考えていませんか。

先に結論をお伝えします。あなたの借地権付き建物は、仮に地主が売却に反対していても、裁判所の手続きを使えば第三者に売却できます。これは思い込みではなく、借地借家法という法律で認められた、あなたの正当な権利です。

この記事は、借地権付き建物の売却を考えていて、地主との関係や手続きに不安を感じているあなたのために書きました。読み終えたとき、あなたは「売れないかもしれない」という不安から「売る方法は複数ある」という具体的な選択肢を持てるようになります。

あなたが「売れない」と思い込んでいる3つの理由

借地権付き建物の売却相談を受けるとき、多くの方が同じ理由で売却をあきらめています。あなたにも当てはまるものがないか、確認してください。

  1. 地主の許可がないと売れないと思っていることです。
    たしかに借地権を第三者に譲渡するには、原則として地主の承諾が必要です(民法612条1項)。しかし、地主が承諾しない場合でも、あなたには次の章で説明する法的な対処法があります。
  2. 建物が老朽化していると売れないと思っていることです。
    建物が古くても、借地権そのものには資産価値があります。買主が見つかれば、建物の状態に応じた価格で取引が成立します。
  3. 契約期間が残り少ないと売れないと思っていることです。
    残存期間は売却価格に影響しますが、「売れない理由」にはなりません。期間が短いことを理由に地主との交渉を避け、住み続ける一択に絞ってしまうのは、あなたの選択肢を狭めてしまいます。

地主が同意しないとき、あなたが使える「借地非訟」という制度

地主があなたの借地権の譲渡を認めない場合、あなたは裁判所に申し立てて、地主の承諾に代わる許可を得ることができます。この手続きを借地非訟(しゃくちひそう)といいます。

(土地の賃借権の譲渡又は転貸の許可)
第十九条 借地権者が賃借権の目的である土地の上の建物を第三者に譲渡しようとする場合において、その第三者が賃借権を取得し、又は転借をしても借地権設定者に不利となるおそれがないにもかかわらず、借地権設定者がその賃借権の譲渡又は転貸を承諾しないときは、裁判所は、借地権者の申立てにより、借地権設定者の承諾に代わる許可を与えることができる。この場合において、当事者間の利益の衡平を図るため必要があるときは、賃借権の譲渡若しくは転貸を条件とする借地条件の変更を命じ、又はその許可を財産上の給付に係らしめることができる。
2 裁判所は、前項の裁判をするには、賃借権の残存期間、借地に関する従前の経過、賃借権の譲渡又は転貸を必要とする事情その他一切の事情を考慮しなければならない。

借地借家法では、第三者があなたの借地権を取得しても地主に不利益が生じないにもかかわらず地主が承諾しないときは、裁判所があなたの申立てにより地主の承諾に代わる許可を与えることができると定めています。つまり、地主の同意は「絶対条件」ではなく、裁判所の許可で代替できる仕組みが、はじめから法律に用意されているのです。

裁判所が許可を出す際は、契約の残存期間や、これまでの借地に関する経過、あなたが譲渡を必要とする事情などを考慮します。この手続きを進めるには、あなたが借地権を買いたいという買主を先に見つけておく必要があります。買主が決まっていない段階では申立てができません。

許可が出る場合、裁判所はあわせて「譲渡承諾料」の支払いをあなたに命じることがあります。これは地主への対価で、相場は借地権価格の10%程度とされています。

地主には「先買権(介入権)」がある、というあなたが知っておくべき事実

あなたが借地非訟の申立てをすると、地主はそれに対抗して、自分自身があなたの建物と借地権を買い取りたいと裁判所に申し出ることができます。これを地主の介入権(先買権)といいます。

(土地の賃借権の譲渡又は転貸の許可)
第十九条3 第一項の申立てがあった場合において、裁判所が定める期間内に借地権設定者が自ら建物の譲渡及び賃借権の譲渡又は転貸を受ける旨の申立てをしたときは、裁判所は、同項の規定にかかわらず、相当の対価及び転貸の条件を定めて、これを命ずることができる。この裁判においては、当事者双方に対し、その義務を同時に履行すべきことを命ずることができる。

地主が介入権を行使すると、裁判所が選ぶ鑑定委員会が借地権価格を算定し、その金額で地主への譲渡が命じられます。ここで重要なのは、この鑑定金額は理論的・客観的な価格であり、地主が一方的に提示する低い金額とは別物だということです。地主が「安く買い戻したい」と考えていても、裁判所の手続きに乗れば、適正な価格水準で取引される可能性が高くなります。

一方で、地主が買い取れない、あるいは買い取らないと判断した場合は、あなたが見つけた買主が裁判所の許可を得て借地権を購入できます。このときの売買価格は、裁判所の鑑定金額とは関係なく、あなたと買主が合意した金額になります。

ここまでの内容をあなたの状況に当てはめると、次の3つの結果のいずれかに進むことになります。

  1. 地主が交渉に応じ、通常の譲渡承諾を得て売却する
  2. 地主が介入権を行使し、裁判所が定める適正価格で地主に売却する
  3. 地主が買い取らず、裁判所の許可を得てあなたが見つけた買主に売却する

いずれの結果でも、あなたが「売却する」という選択肢自体を失うことはありません。

あなたが知っておくべき時間とコストの現実

借地非訟には良い面だけでなく、あなたが負担すべき現実もあります。

地主との話し合いがまとまらず、裁判所の手続きに進む場合、許可が出るまでに1年から1年半程度かかるのが一般的です。買主にとってもこの期間は負担になるため、トラブルを抱えた借地権を相場どおりの価格で買おうとする買主は限られます。

このため、借地非訟は「最終手段」として理解しておくことをおすすめします。地主との関係がこじれる前に、まず話し合いの機会を持つことが、時間とコストの両方を抑える近道です。

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実際にあった相談事例

東京都品川区で長年自宅として借地権付き建物に住んでいた方から、こんな相談を受けたことがあります。

建物は何度かの更新を経てかなり老朽化し、契約の残存期間は10年でした。その方は「もう建て替える体力もないし、このまま住んで契約期間が来たら地主に借地権を返そうと思っている」と話していました。

詳しく伺うと、その方は借地権を売却できることを知らないまま、長年その選択肢を検討すらしていませんでした。実はそのエリアは人気が高く、借地権でも相応の価格がつく場所でした。

近隣では、別の借地人が借地権の売却を試みたものの地主が反対し、結果的にかなり低い金額で地主に借地権を返還してしまったという話もありました。相談者自身も地主から低い金額を提示されたことがあり、「その金額では住み替えも難しいし、住み慣れた場所を離れたくない」という思いから、売却を諦めて住み続ける決断をしていたのです。

この事例で伝えたいのは、「地主が反対した」という事実だけで売却の道を閉じてしまうのは早すぎるということです。借地非訟という選択肢を知っているだけで、交渉のテーブルに着く前提が変わります。

あなたが借地権付き建物を適正な価格で売るためにできること

ここまでの内容を踏まえて、あなたが今からできることを整理します。

まず、地主との対立を急がないことです。借地非訟はあくまで地主が承諾しない場合の手段であり、最初の選択肢ではありません。地主との信頼関係は、契約そのものの土台になっています。話し合いから始めることで、時間とコストの両方を抑えられる可能性があります。

次に、あなたの借地権のエリア相場を知ることです。借地権の価格は、土地の所有権価格に対する一定の割合(借地権割合)で算定されるのが一般的です。エリアによって相場は大きく異なるため、自分の借地権がどの程度の価値を持つのかを知らないまま、地主の提示額をそのまま受け入れてしまうのは避けるべきです。

最後に、早い段階で借地権の取り扱いに詳しい不動産コンサルタントに相談することです。借地権の売却は、地主との交渉、借地非訟の申立て、価格交渉のすべてが絡み合う専門性の高い分野です。売却だけが解決策ではなく、建物の活用方法や地主との条件変更交渉など、複数の選択肢を比較した上で判断することが、あなたにとって最も納得感のある結果につながります。

よくある質問

Q
借地権だけを売ることはできますか。
A

一般的には、借地上の建物と借地権はセットで売却します。建物がない状態での借地権単体の売却は通常想定されていません。

Q
地主の許可なく勝手に売却してもいいですか。
A

いいえ。無断で譲渡すると、地主から賃貸借契約を解除されるリスクがあります。必ず地主の承諾、または借地非訟による裁判所の許可を得てください。

Q
借地非訟にはどのくらいの費用がかかりますか。
A

裁判所への申立費用に加えて、許可が出た場合は譲渡承諾料(借地権価格の10%程度が目安)が発生します。弁護士や鑑定士に依頼する場合は、その費用も別途かかります。

Q
建物が古くても売却できますか。
A

老朽化していても借地権自体に資産価値があるため、売却は可能です。ただし、老朽化が著しく「朽廃」に近い状態と判断される場合は、譲渡許可の判断に影響することがあります。

まとめ

借地権付き建物は、地主の同意がなくても、借地非訟という裁判所の手続きを使って売却できます。これは借地借家法で認められた、あなたの正当な権利です。

ただし、借地非訟は時間とコストがかかる最終手段であり、最初に目指すべきは地主との話し合いです。あなたの借地権がどの程度の価値を持つのかを把握し、専門家とともに、対立ではなく解決を前提に動き出すことが、適正な価格での売却につながります。