今回ご紹介するのは、相続した借地上の空き家を姉妹で建て替えたいというご相談です。
50坪前後の借地には、築半世紀を超える建物が残されていました。建物は長期間空き家となり、室内には多くの残置物も残されていました。
姉妹は資金を出し合って建て替えることを希望していましたが、借地権を相続したのは長女だけでした。
そのまま姉妹共有の建物を建てると、土地を利用する権利と建物の所有権が一致せず、将来の相続で権利関係が複雑になる可能性があります。
そこで、地主の承諾を得て、長女が持つ借地権の一部を次女へ贈与しました。さらに、50坪前後の借地を約25坪ずつの借地範囲に分け、姉妹がそれぞれ地主と借地契約を結び直しました。
その結果、姉妹はそれぞれの借地上に、別々の建物を単独名義で建てることができました。
この事例で大切だったのは、建て替えを実現することだけではありません。
姉妹が本当に残したかったものを確認し、将来の相続まで考えて借地権と建物所有の関係を整理することでした。
※本記事は実際の相談事例をもとにしていますが、個人が特定されないよう、面積・築年数・家族構成・契約条件などは、事例の本質を損なわない範囲で一部変更・概略化しています。借地契約や税務上の取り扱いは、契約内容や個別の事情によって異なります。
問題・課題|長女だけが借地権を持ち、姉妹での建て替えには権利整理が必要だった

【ご相談の背景】
ご相談時、借地上の建物は築後60年以上が経過していました。
建物の老朽化が進み、室内には多くの残置物が残されていたため、そのまま修繕して活用することは難しい状態でした。
空き家になってからも地代は支払い続けていましたが、活用されないまま数年が経過していました。
近隣住民からは、火災や防犯面を心配する声も地主へ寄せられていました。地主にとっても、古い建物が空き家のまま放置されていることは不安材料でした。
借地権を相続したのは長女です。
一方、姉妹は二人で資金を出し合い、既存建物を解体してアパートへ建て替えたいと考えていました。
しかし、借地権を長女が単独で持ったまま、建物だけを姉妹共有にすると、次女は独立した借地権を持たずに建物の持分を所有することになります。
将来、次女に相続が発生した場合には、次女の建物持分は、その配偶者や子どもなどへ相続されます。
そうなると、長女が持つ借地権と、次女の家族が相続した建物所有権が別々の人に帰属し、土地を利用する権利と建物を所有する権利の関係が複雑になる可能性があります。
そのため、目の前の建て替えを実現するだけでは、根本的な解決になりません。
姉妹がそれぞれ安心して建物を所有し、将来の相続にも備えられるよう、借地権と建物所有の関係から整理する必要がありました。
私の考え|資金効率だけなら第三者への売却も合理的だった
私は当初、借地権を第三者へ売却する方法も有力な選択肢だと考えていました。
既存建物は老朽化が進み、そのまま活用することは困難です。
建て替える場合は、残置物の撤去費、建物の解体費、アパートの建築費、地主への承諾料などが必要になります。借地である以上、建て替え後も地代を支払い続けなければなりません。
建て替え費用に対して十分な賃貸収益を見込みにくければ、資金効率や利益面では、借地権を第三者へ売却した方が合理的な場合があります。
しかし、収益性だけを見て売却を勧めることはできません。
姉妹がなぜ一緒にアパートを建てたいと考えているのか、借地権を長女だけが相続した理由も含めて、詳しくお話を伺いました。
ヒアリングで分かった遺産分割の経緯

【遺産分割の経緯】
姉妹には、すでに亡くなっていた兄がいました。
そのため、ご両親の相続では、亡くなっていた兄の子どもたちが、兄に代わって相続する「代襲相続人」となっていました。
相続人が複数いたこともあり、遺産分割では意見がまとまらず、話し合いが難航していました。
その中で、姉妹には「生まれ育った実家を残したい」という共通の希望がありました。
そこで、実家の敷地に関する借地権は長女が単独で相続し、そのほかの財産については、売却して現金に換えたうえで分ける「換価分割」を行い、遺産分割をまとめていました。
借地契約上、借地人となっていたのは長女一人でした。
しかし、その背景には、姉妹が一緒に実家を残したいという強い想いがありました。
姉妹でアパートを建てたいという希望も、単に家賃収入を得ることだけが目的ではなかったのです。
姉妹が本当に望んでいたのは、最も多くの利益を残すことではなく、生まれ育った実家の場所をこれからも残していくことでした。
この希望が分かったことで、相談の方向性は、資金効率を優先した売却から「実家の場所を残すために、権利関係をどのように整理するか」へと変わりました。
建て替えの承諾だけでは十分ではなかった
当初の「姉妹でアパートを建て替えたい」という希望だけを受け入れ、地主との建替え条件の交渉だけで終わっていたら、将来の権利関係に問題を残していました。
借地権は長女だけが持ち、アパートは姉妹共有という形では、次女の将来の相続時に、建物の持分だけが次女の家族へ引き継がれる可能性があります。
これでは、姉妹が望んでいた「実家の場所を家族で残していくこと」を、次の世代へ安心してつなげられません。
そこで、建物の建て替えだけでなく、姉妹それぞれが借地人となり、自分の建物を単独で所有できる形へ整理することにしました。
課題解決|50坪前後の借地の利用範囲を整理し、姉妹が地主と個別に契約
姉妹の希望を実現するため、次の順番で借地権と契約関係を整理しました。
- 長女の借地権の一部を次女へ贈与
まず、長女が単独で相続していた借地権の一部に相当する権利を次女へ贈与しました。
借地権には財産としての価値があるため、無償で移転すると原則として贈与税の対象になります。本件では、借地権の評価や税負担を確認したうえで、次女にも借地権に関する権利を持たせる方法を選びました。
税負担だけを考えれば、贈与しない方がよいように見えるかもしれません。
しかし、借地権を長女だけが持ち、建物だけを姉妹共有にすることで、将来の権利関係が複雑になる可能性があります。今回は、贈与税の負担も踏まえたうえで、次女も借地権に関する権利を持つ方法を選びました。
※参照:借地権の評価|国税庁
- 50坪前後の借地の借地範囲を約25坪ずつに分ける
次に、50坪前後の借地を、長女と次女が使用する約25坪ずつの範囲に分けました。
これは、一つの借地権を姉妹で共有したまま使用するという意味ではありません。
借地契約上の利用範囲を約25坪ずつに分け、姉妹それぞれが自分の範囲について、地主と個別に契約できる状態に整理しました。※なお、ここでいう「約25坪ずつに分ける」とは、土地の所有権を分けたり、必ずしも土地を分筆したりすることではありません。地主との合意により、それぞれの土地賃貸借契約の対象となる範囲を約25坪ずつに特定したという意味です。
- 姉妹それぞれが地主と借地契約を結び直す
借地範囲を整理したうえで、長女と次女が、それぞれ地主と土地賃貸借契約を結び直しました。
これにより、長女と次女は、それぞれ約25坪の借地について単独の借地人となりました。
そして、姉妹それぞれが自分の借地上に、別々の建物を単独名義で建てられる状態にしました。借地権が土地の賃借権である場合、原則として地主の承諾なく第三者へ譲渡することはできません。本件でも、次女への権利移転、借地範囲の変更、建て替えについて地主と協議し、承諾を得て進めました。
※参照:借地権の譲渡と地主の承諾|国税庁
- 地主にとっての利点も整理して提案
今回の解決には、地主の理解と承諾が欠かせませんでした。
そこで、姉妹の希望だけでなく、地主にとっての利点も整理して説明しました。
- 長期間続いていた空き家の状態が解消される
- 火災や防犯面について、近隣住民が抱えていた不安がなくなる
- 老朽化した建物が新しい建物へ建て替えられる
- 借地権者と建物所有者の関係が明確になる
- 双方の合意により、借地契約の内容と地代を見直せる
- 今後の借地管理がしやすくなる
地主は、姉妹とは以前から面識がありました。
借地権が、地主にとって面識のない第三者へ譲渡されるよりも、以前から知っている姉妹が借地人となり、実家の場所を維持していくことは、地主にとっても安心材料になりました。姉妹が実家を残したいという希望と、地主が空き家を解消して借地関係を明確にしたいという希望の両方を整理したことで、合意へ進むことができました。
結果|姉妹がそれぞれ借地人となり、別々の建物を建築

地主との合意後、長女が持っていた借地権の一部に相当する権利を次女へ贈与しました。
そのうえで、50坪前後の借地を約25坪ずつの借地範囲に分け、長女と次女がそれぞれ地主と土地賃貸借契約を結び直しました。
これにより、姉妹は一つの借地権や建物を共有するのではなく、それぞれが単独の借地人となり、各自の借地上に別々の建物を単独名義で建てることができました。
| 項目 | 整理前 | 整理後 |
|---|---|---|
| 借地権 | 長女が50坪前後の借地権を単独で相続 | 姉妹それぞれが約25坪の借地について地主と個別に契約 |
| 建物 | 築60年以上の空き家が1棟 | 姉妹が各自の借地上に別々の建物を建築 |
| 次女の権利 | 独立した借地権を持っていなかった | 自分の建物の敷地について単独の借地人となった |
| 将来の相続 | 借地権と建物所有権の関係が複雑になる可能性があった | 借地権者と建物所有者の関係が明確になった |
| 地主 | 老朽化した空き家や近隣住民からの不安を抱えていた | 空き家が解消され、契約内容と地代も見直された |
| 姉妹 | 実家を残したいが、権利関係が整っていなかった | 生まれ育った場所を残しながら、各自が建物を所有できた |
借地権の一部を次女へ贈与したため、贈与税の負担は生じました。
しかし、次女の建物だけが将来その家族へ相続され、土地を利用する権利と建物所有権が分かれてしまうリスクを抑えることができました。
地主には、本件の合意に伴う承諾料が支払われ、地代も双方合意により見直されました。
また、長年続いていた空き家が解消されたことで、近隣住民が抱えていた火災や防犯面の不安も解消されました。
今回の解決によって、姉妹だけでなく、地主と近隣住民が抱えていた問題も一緒に整理することができました。
この事例から伝えたいこと|相談者の最初の要望が、本当の目的とは限らない
相談当初、姉妹の要望は「二人でアパートを建て替えたい」というものでした。
しかし、その要望をそのまま実現するだけでは、次女が独立した借地権を持たないまま建物を共有することになり、将来の相続で権利関係が複雑になる可能性がありました。
また、資金効率だけを考えれば、借地権を第三者へ売却する選択肢もありました。
それでも、遺産分割の経緯や姉妹の想いを整理していくと、本当に実現したかったのは「アパートを建てること」ではなく、「生まれ育った実家の場所を姉妹で残すこと」だと分かりました。
相談者が最初に話す要望が、本当の目的とは限りません。
表面的な要望だけで方針を決めるのではなく、その背景にある相続の経緯、家族関係、将来の不安まで整理することが大切です。
節税や資産効率は大切です。しかし、それらは家族の想いという土台があってこそ活きるものです。
今回の事例では、姉妹が残したいものを確認してから、借地権、建物所有、税金、地主との関係を整理しました。その順番で考えたことが、生まれ育った場所を次の世代へつなぐ解決につながりました。
借地権者と建物所有者が異なる場合や、親族で借地上の建て替えを検討している場合は、建築計画を進める前に権利関係を確認することが大切です。地主への説明や将来の相続まで含めて整理したい方は、早い段階でご相談ください。
