この記事のポイント
- 査定価格は「必ずその価格で売れる」という保証額ではありません。
- 売出価格は販売戦略を踏まえて設定し、実際の取引では売主と買主が合意した価格が成約価格になります。
- 複数社を比較するときは「査定額の高さ」ではなく「査定根拠+販売戦略」を確認することが重要です。
不動産の売却を考えて複数の不動産会社へ査定を依頼すると、
「A社は5,000万円、B社は5,500万円、C社は6,000万円。いったいどの価格が正しいのだろう?」
と迷うことがあります。
同じ不動産なのに、査定価格が数百万円以上違うことも珍しくありません。
なぜなら、不動産にはスーパーの商品と同じような「定価」がないからです。
結論から言えば、不動産の査定価格は「この価格で必ず売れる」という保証額ではありません。
この記事では、「不動産の価格はどのように決まるのか?」という疑問にお答えし、査定価格や売出価格の違い、そしてご自身にとっての「適正価格」を見つけるための考え方をお伝えします。
不動産には「一つの正しい価格」があるわけではない
そもそも、土地には目的に応じて複数の価格が存在します。これを不動産業界では「一物四価」や「一物五価」と呼びます。
| 価格の種類 | 目的・用途 | 公表・決定機関 |
|---|---|---|
| 公示地価 | 一般の土地取引の指標となる価格 | 国土交通省 |
| 基準地価 | 公示地価を補完する指標となる価格 | 都道府県 |
| 路線価 | 相続税や贈与税を計算するための価格 | 国税庁 |
| 固定資産税評価額 | 固定資産税等を計算するための価格 | 市町村 |
| 実勢価格 | 実際の取引で形成される市場価格 | 市場(需要と供給) |
このように、税金計算のためなのか、取引の目安なのかによって基準となる価格が異なります。私たちが不動産を売買するときに関係してくるのは、実際に取引される「実勢価格」です。
※路線価や一物五価について、さらに詳しく知りたい方は以下の記事をご覧ください。
不動産売却で知っておきたい4つの価格
不動産売却では、「価格」という同じ言葉でも意味が異なります。
| 価格 | 主に誰が決めるか | 一言で言うと |
|---|---|---|
| 査定価格 | 不動産会社 | 「売れそうな価格」の予測。売却を保証する価格ではない |
| 売却希望価格 | 売主 | 「このくらいで売りたい」という希望 |
| 売出価格 | 売主 | 査定・希望・販売戦略を踏まえて市場へ公開する価格 |
| 成約価格 | 売主と買主 | 交渉の結果、実際の売買契約で合意した価格 |
それぞれ詳しく見ていきましょう。
査定価格とは
査定価格とは、不動産会社が周辺の取引事例、市場動向、土地・建物の条件などを調査して、「どの程度の価格で売却できる可能性があるか」を判断した価格です。
重要なのは、査定価格は成約価格を保証するものではないということです。
例えば6,000万円という査定価格が提示されたとしても、6,000万円で購入する買主が現れなければ、その価格で売買は成立しません。
一方で、市場からの評価が想定より高ければ、査定価格以上で成約することもあります。
査定価格は、あくまで売却方針を考えるための重要な判断材料の一つです。
売却希望価格とは
売却希望価格とは、売主が、
「できれば5,500万円以上で売りたい」
「住宅ローンを完済するため最低でもこの金額は確保したい」
などと考えている希望価格です。
ただし、売主の希望と市場で購入希望者が評価する価格が一致するとは限りません。
そのため、希望額だけでなく、市場価格や売却期限などをあわせて考える必要があります。
売出価格とは
売出価格とは、不動産ポータルサイトや広告などで実際に市場へ公開する価格です。
査定価格、売主の希望、市場動向、販売戦略などを踏まえて設定します。
例えば、査定価格が5,000万円だからといって、必ず5,000万円で売り出さなければならないわけではありません。
買主からの反応を確認するため少し高めから売り出す方法もあれば、売却期限を優先して市場に受け入れられやすい価格から始める方法もあります。
つまり、売出価格には売却戦略が反映されます。
成約価格とは
成約価格とは、売主と買主が価格やその他の取引条件について合意し、実際に売買契約を締結した価格です。
「不動産が実際にいくらで取引されているのか」を考える際には、売出価格よりも成約価格の方が重要な情報になります。
ただし、ある一件の成約価格だけを見て「その地域の適正価格はこの金額だ」と判断することもできません。
売却時期、土地の形状、建物の状態、売主・買主の事情など、取引条件がそれぞれ異なるからです。
国土交通省の『不動産情報ライブラリ』では、不動産取引価格情報に加え、戸建てや中古マンション等の成約価格情報も確認できます。
なぜ不動産会社によって査定価格が違うのか
では、同じ不動産を査定しているのに、なぜ不動産会社によって価格が違うのでしょうか。
主な理由は、査定する際の前提条件や評価の仕方が違うからです。
例えば、次のような項目があります。
- どの成約事例を比較対象にするか
- 土地の形状や間口
- 道路との接し方や道路幅員
- 建物の築年数や維持管理状態
- 周辺地域の需要と供給
- 駅距離や生活利便性
- 想定する売却期間
- 現況渡し、更地渡しなどの売却条件
- 測量・境界確認の状況
- 建築・法令上の制限
- 不動産会社の査定方法や販売戦略
例えば、同じ地域で5,000万円の成約事例と5,800万円の成約事例があったとしても、どちらを比較対象として採用するかによって査定結果は変わります。
また、同じ5,000万円の土地でも、
「3か月程度を目安に売却したい」
場合と、
「時間がかかっても条件の良い買主を探したい」
場合では、考える販売戦略も違ってきます。
だからこそ、査定価格を見る際には「金額」だけではなく、「その金額になった理由」を確認する必要があります。
不動産会社には査定価格の「根拠」を確認する
不動産会社から査定を受けたら、私は査定額そのもの以上に、その根拠を確認することをおすすめしています。
宅地建物取引業法第34条の2第2項では、媒介契約において宅地建物取引業者が売買すべき価額について意見を述べるときは、その根拠を明らかにしなければならないとされています。
媒介契約前の査定段階でも、提示された金額だけで判断せず、その根拠を確認しておくことをおすすめします。
(媒介契約)
第34条の2
2.宅地建物取引業者は、前項第2号の価額又は評価額について意見を述べるときは、その根拠を明らかにしなければならない。
合理的な査定であれば、
- どの成約事例を参考にしたのか
- 対象物件との違いをどう評価したのか
- プラス評価とマイナス評価は何か
- どの程度の販売期間を想定しているのか
- どのような買主を想定しているのか
- その価格でどのような販売戦略を取るのか
について説明できるはずです。
ですから、
「査定価格はいくらですか?」
だけではなく、
「なぜこの査定価格になったのですか?」
まで確認してください。
この違いは、不動産会社を選ぶ際の非常に重要な判断材料になります。
高い査定価格=高く売れる、ではない
例えば、3社から次の査定価格が提示されたとします。
A社:5,000万円
B社:5,300万円
C社:6,000万円
この結果だけを見れば、C社へ依頼したくなるかもしれません。
しかし、
「査定額が一番高い会社=一番高く売却できる会社」ではありません。
査定価格は売却を保証する価格ではないからです。
6,000万円という査定を提示された場合には、
「なぜ他社より700万円~1,000万円高いのか」
を確認する必要があります。
十分な根拠と具体的な販売戦略があるのであれば、6,000万円という査定にも合理性があるかもしれません。
一方、十分な説明がないまま高い売出価格を設定すると、購入希望者からの反応が得られず、販売期間が長期化することもあります。
販売期間が長くなったからといって必ず値下げしなければならないわけではありませんが、価格設定や販売方法を再検討する必要が出てくることがあります。
だからこそ、査定価格ではなく、
「査定価格+その根拠+販売戦略」
をセットで比較することが大切です。
不動産の成約価格は何によって決まるのか
最終的な成約価格は、売主や不動産会社が一方的に決めるものではありません。
基本的には、市場における需要と供給を背景として、
- 物件そのものの条件
- 売却する時期
- 金利などの市場環境
- 売却条件
- 買主がその不動産に感じる価値
などが重なって決まります。
特に大切なのが、
「誰がその不動産を欲しいと考えるのか」
という視点です。
一般の住宅購入者の場合
住宅として利用する買主であれば、
- 駅からの距離
- 日当たり
- 間取り
- 学区
- 周辺環境
- 建物の状態
などが重要になります。
不動産会社の場合
建売会社や不動産会社であれば、
「建物を建てたり再販売したりした場合に、事業として採算が合うか」
という視点から価格を考えます。
不動産投資家の場合
投資家であれば、
- 賃料
- 稼働率
- 維持管理費
- 将来の修繕費
- 利回り
- 将来の売却可能性
などが重要な判断材料になります。
隣地所有者の場合
隣地を取得することで、
- 土地の形が良くなる
- 接道条件が改善する
- 建築計画の自由度が上がる
などのメリットが生まれることがあります。
その場合、一般の第三者とは異なる価値を感じる可能性があります。
つまり、不動産の価値は物件そのものだけではなく、「誰にとって、どんな使い方ができる不動産なのか」によっても変わります。
この記事を書いた人の著書
不動産の「なぜ?」を、しくみから理解したい方へ
『オールカラー 不動産のしくみと仕事がわかる本』
著者:脇保 雄麻|ナツメ社
不動産の価格や物件調査、住宅ローン、契約、税金、借地権まで、不動産の基本と実務を一冊にまとめました。この記事のテーマをもう少し体系的に理解したい方におすすめです。
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借地権・底地・共有不動産は、一般的な査定だけでは判断しにくい
私が特に注意しているのが、借地権・底地・共有不動産・相続が絡む不動産です。
これらの不動産では、周辺の坪単価だけを見ても適正な売却条件を判断できないことがあります。
例えば借地権であれば、
- 地主との契約内容
- 地代
- 借地期間
- 更新条件
- 譲渡承諾の必要性
- 建替えの可否
- 地主との関係性
などによって評価が変わります。
底地であれば、借地人へ売却する場合と第三者へ売却する場合で、購入する側が感じる価値が異なる場合があります。
共有不動産でも、
「共有持分だけを第三者へ売却する」
場合と、
「共有者全員で不動産全体を売却する」
場合では条件が大きく変わります。
こうした不動産では、
「いくらで売れるか」を考える前に、「誰に・どのような条件で・どの順番で話を進めるか」を整理することが重要です。
価格だけを先に決めようとすると、本来選べたはずの選択肢を狭めてしまうこともあります。
不動産の「適正価格」は一つとは限らない
ここまで説明してきたように、不動産には絶対的な「正解価格」が一つだけ存在するわけではありません。
例えば、
- 5,000万円を目標として、時間をかけて購入希望者を探す
- 4,800万円程度でも、売却時期を優先する
この二つ、売主様にとってどちらが「正解」でしょうか?それは、ご家族の事情によって全く異なります。特に相続が絡む不動産の場合、考慮すべきは「価格」だけではありません。
- いつまでに売却する必要があるのか
- 相続税などの資金を準備する必要があるのか
- 共有者(他の相続人)との関係性はどうなっているか
- 空き家を維持し続ける費用やリスクはどうか
- 借地人や地主との関係はどうか
- 家族間で不公平感が生まれないか
こういった事情を抱えている場合、「1円でも高く売ること」を最優先にしてしまうと、解決まで何年もかかってしまったり、家族間に深い亀裂が入ってしまったりすることがあります。
私たちが考える適正価格とは、市場の相場という「数字」を正しく把握した上で、「ご家族にとって一番納得できる条件(着地点)はどこか」を考えることです。
価格の最大化だけを目指すのではなく、ご自身の状況やご家族の想い(家族軸)を整理し、無理のない解決(三方良し)を目指すこと。それが、後悔のない不動産の取り扱い方だと私たちは考えています。
私たちが考える「適正価格」とは
ユー不動産コンサルタントでは、適正価格を単純に「市場で最も高く売れる金額」だけとは考えていません。
まず市場の相場や不動産の状態を客観的に確認します。
そのうえで、
- 価格
- 売却までの期間
- 税金や費用
- 権利関係
- 将来の選択肢
- 関係者との関係
- ご本人やご家族の希望
を整理して、
「この条件なら後から振り返っても納得できる」という着地点を探すこと
が大切だと考えています。
不動産の売却では、価格を最大化することが目的になる場合もあります。
一方で、相続や借地・底地のように複数の人が関係する不動産では、「誰か一人だけが得をする条件」では長期的な解決にならないことがあります。
市場価格を把握したうえで、関係者が無理なく納得できる条件を考える。
これが、私たちが「家族軸」「三方良し」という考え方を大切にしている理由です。
よくある質問
- Q不動産会社の査定価格で売り出さなければならないのですか?
- A
いいえ。査定価格は不動産会社が市場データや物件条件などから提示する価格の意見であり、そのまま売出価格にしなければならないわけではありません。
売主の希望や売却期限、市場状況、販売戦略などを確認しながら売出価格を考えます。
- Q売主の希望や売却期限、市場状況、販売戦略などを確認しながら売出価格を考えます。
- A
売主の希望や売却期限、市場状況、販売戦略などを確認しながら売出価格を考えます。
査定価格は、不動産会社が「どの程度で売却できる可能性があるか」を判断した価格です。
売出価格は、実際に市場へ公開する価格です。
査定価格を参考にしながら、売主の希望や販売戦略などを踏まえて設定します。
- Q一番高い査定価格を出した不動産会社に依頼した方がよいですか?
- A
査定価格だけでは判断できません。
「なぜその金額になるのか」「どの成約事例を参考にしたのか」「どのような販売戦略を考えているのか」を確認してください。
複数社を比較する場合は、査定額ではなく査定根拠まで比較することが重要です。
- Q成約価格がその不動産の適正価格なのですか?
- A
成約価格は、その取引時点・取引条件で売主と買主が合意した実際の売買価格です。
ただし、一件の成約価格だけで別の不動産の適正価格を判断することはできません。
周辺の複数の取引事例、物件条件、市場動向などを比較して判断する必要があります。
- Q借地権や底地も一般的な不動産と同じように査定できますか?
- A
周辺相場だけでは判断しにくい不動産です。
借地条件、地代、契約期間、地主・借地人との関係、譲渡条件などによって価値や売却方法が変わります。
そのため、価格査定だけでなく、権利関係と売却までの進め方をあわせて整理する必要があります。
まとめ|査定価格ではなく「根拠」と「自分たちの判断軸」を見る
不動産会社から異なる査定価格を提示されると、「一番高い会社に頼んだ方が得なのでは」と考えてしまうかもしれません。
しかし、査定価格は売れることを保証する価格ではありません。
不動産会社を比較するときの5つの確認ポイント
- 査定価格
- 査定価格の根拠
- 想定している買主
- 販売戦略
- 自分たちが何を優先するのか
特に相続不動産、借地権、底地、共有不動産では、「いくらで売るか」だけではなく、「誰に・どの条件で・どの順番で進めるか」によって結果が変わることがあります。
査定価格を見て迷ったときこそ、一度「この不動産をどうしたいのか」という原点から整理してみてください。
- 「複数の査定を受けたが、どの価格が妥当なのか分からない」
- 「高い査定を提示されたが、その根拠に納得できない」
- 「売却を勧められているが、本当に今売るべきなのか判断したい」
という場合は、売却を依頼する前に第三者の視点を入れる方法もあります。
ユー不動産コンサルタントの「不動産のセカンドオピニオン」では、売却を前提とせず、提示された査定や提案内容、選択肢を整理します。
決める前に一度立ち止まり、「自分たちにとって何を優先すべきなのか」を整理したい方はご覧ください。
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