こんにちは。

台東区上野を拠点に、借地権・底地と不動産相続について、想いと現実の整理、方針設計、実行支援を行っている、株式会社ユー不動産コンサルタントの脇保雄麻(わきやす ゆうま)です。

不動産の仕事をしていると、知人やお客様から「不動産の仕事の面白さは何ですか?」と聞かれることがあります。

私が考える不動産の面白いところは、同じ土地や建物であっても、使う人、活かし方、権利関係、そして引き継ぐ人によって、価値の見え方が大きく変わるところです。
この記事を最初に書いた頃、私は「手を加えることで、収益を生まなかった不動産が収益を生む資産に変わる」という、経済的な価値の変化に面白さを感じていました。

そのために必要な技術や知識の大切さは、今も変わっていません。

ただ、ご家族それぞれの迷いや、相続・権利調整の実務に向き合う中で、不動産の価値は、目先の収益や売却価格だけでは十分に測れないことを、以前より強く感じるようになりました。

不動産には、そこに住んできた人の暮らしがあり、家族の記憶があり、地主さんと借地人さんのような関係者の歴史があります。

だからこそ、不動産の価値を考えるときは「いくらになるか」という数字だけでなく、「誰が、どのように使い、どのように引き継ぐのか」という家族の未来まで考えることが欠かせないのです。

同じ不動産でも、立場によって価値の見え方は変わる

一つの不動産であっても、見る人の立場によってその価値はまったく異なります。

  • 親にとっての価値と、子どもにとっての価値
    親にとっては「何十年も暮らしてきた愛着ある大切な実家」であっても、遠方に住む子どもにとっては「将来の管理や修繕、固定資産税の負担が重くのしかかる不動産」になることがあります。
  • 収益不動産の受け止め方の違い
    毎月家賃を生んでいる賃貸アパートであっても、将来の借入金返済、空室リスク、大規模修繕、入居者トラブルの対応まで含めて引き継ぐ子どもが、親と同じように「価値ある資産」と感じるとは限りません。
  • 活用しにくい土地の再生
    反対に、一見すると狭小地や変形地で活用が難しい土地であっても、隣地との境界調整、複雑な権利関係の整理、用途の見直しによって、新しい可能性が大きく開けることもあります。

つまり、不動産の価値は「物件そのもののスペック」だけで決まるものではありません。

関係する人の立場、これからの利用目的、将来の管理負担まで含めて見つめ直すことで、初めて「そのご家族にとって何を価値とするのか」が見えてきます。

付加価値をつけるとは、「建物を建てること」だけではない

不動産に付加価値をつけるというと、「アパートを新築する」「リフォームする」「駐車場として活用する」といった物理的な方法が、一般に思い浮かびます。

もちろん、それらも有力な選択肢です。

しかし、私が大切にしている不動産の価値づくりは、工事や建築だけにとどまりません。例えば、次のような「見えにくい部分の整理」も、不動産の価値を守ることにつながります。

  • 土地や建物の登記名義、境界資料、契約内容を確認する
  • 共有不動産について、将来の管理や処分に関する考えを整理する
  • 借地権や底地について、地主と借地人が将来の契約や承継について話し合う
  • 修繕・建替え・売却・保有を、費用、期間、手間、将来負担など共通の基準で比較する
  • 次の世代では誰が管理し、費用を負担する可能性があるのかを確認する
  • 遺す人の希望と、受け継ぐ人の暮らしや負担の違いを把握する

建物に手を加えなくても、権利関係、契約内容、管理方法、話し合う順番を整えることで、選択肢を比較しやすくなり、利用・承継・取引を進めやすくなることがあります。

「手を加える」とは、物理的な工事だけではありません。

不動産を取り巻く情報、権利、関係者の考えを整理し、「判断できる状態」をつくることも、大切な価値づくりだと私は考えています。

「何もしない(保留する)」という選択にも正当な理由がある

以前の私は、「不動産を収益資産にするか、固定資産税を払い続けるだけの重荷にするかは所有者次第だ」と考えていた時期もありました。

しかし、様々なご家族と深く対話を重ねる中で、現在はより慎重に向き合っています。

不動産が活用されないままになっている背景には、外からは見えにくい事情があることも多いからです。

  • 親子で将来の方針について、まだ本音を話し合えていない
  • 共有者それぞれの生活環境が異なり、意見のすり合わせに時間がかかる
  • 地主さんや借地人さんとのこれまでの歴史があり、一方的には決められない
  • 売却・建替え・賃貸のどれを選ぶべきか、客観的な判断材料が不足している
  • 大切な思い出が詰まっており、気持ちの整理がつかずすぐには手放せない
  • 相続や親の介護が重なり、不動産のことまで考える精神的・時間的余裕がない

だからこそ、「何も活用できていないからダメだ」と外野が単純に決めつけることはできません。急いで結論を出さず、あえて「今は動かさない」という判断が必要な場面も数多く存在します。

ここで最も大切なのは、「状況が分からないままの放置」「状況を把握したうえでの保留」を区別することです。

毎年の維持費、建物の老朽化度合い、現在の契約内容、誰が管理窓口になるのか、将来誰が引き継ぐのか――。

こうした事実関係を把握したうえで、「今は状況を見極めるために保有を続ける」と決めるのであれば、それも合理的な選択肢になり得ます。

不動産の答えを決める前に、「家族の判断軸」を整理する

不動産の問題に直面すると、多くの方は真っ先に「売るべきか、残すべきか」「建てるべきか、貸すべきか」という手段(方法)の結論を急いでしまいがちです。

しかし、方法から入ってしまうと、遺す人の想いや、受け継ぐ人の将来の負担が置き去りになり、後から感情的な対立や後悔が生まれやすくなります。

私が考える「家族軸」とは、家族全員の希望をそのまま実現することではありません。

遺す人が大切にしたいことと、受け継ぐ人のこれからの暮らしや管理負担を確認し、不動産の現実的な条件と重ね合わせながら、「何を優先するか」という判断基準を整えることです。

後悔のない選択をするためには、以下の「進める順番」が極めて重要になります。

  1. 事実の確認: 登記、契約書、境界、利用状況、時価、収支、将来の維持費を正確に把握する
  2. 想いと負担の整理: 関係する人たちが何を大切にしたいか、誰にどんな負担がかかるかを整理する
  3. 客観的な比較: 売却、保有、活用、建替え、承継などの選択肢をフラットに比較検討する
  4. 対話の設計: 誰に、何を、どのタイミングで相談・共有するか、対話の順番を考える
  5. 方針の決定:関係する人が「なぜこの選択肢に至ったのか」を理解し、後から説明できる形で方針を決める

「何をするか」という方法だけでなく、「どの順番で確認し、話し合うか」を整えることが、将来の認識のずれや後悔を減らすうえで大切なポイントになります。

今、私が感じる不動産の面白さ

不動産には、すべての人に共通する一つの正解がありません。

同じ地域にある同じ面積の土地でも、家族構成、生活拠点、価値観、管理できる人、権利関係によって、適した選択肢は変わります。
高く売れることが、必ずしもそのご家族にとって一番納得できる選択とは限りません。収益が上がることが、そのまま次の世代の安心につながるとも限りません。

一方で、問題が複雑で動かしにくい不動産でも、事実を確認し、関係する人が大切にしたいことを整理し、進める順番を整えることで、これまで見えていなかった選択肢が見つかることがあります。

私が不動産アーキテクトとして感じる面白さは、私が一つの正解を決めることではありません。

想いと不動産の現実を整理し、複数の選択肢を比較できる形にすることで、ご本人やご家族が「なぜこの方法を選ぶのか」を理解し、納得して次の一歩を選べる状態をつくることです。
建物だけでなく、権利、関係者、話し合い、実行の順番まで含めて、不動産の可能性を設計し直せること。

これが、今の私が感じている不動産の面白さであり、現在の仕事につながっている考え方です。

よくある質問

Q
不動産に付加価値をつけるには、建物を建てたりリフォームしたりする必要がありますか?
A

必ずしも物理的な工事を行う必要はありません。
境界を確定させる、契約内容を見直す、共有関係を一本化する、将来の承継ルールを決めておくといった「権利や人間関係の整理」を行うだけでも、不動産の利用価値や取引のスムーズさは大幅に向上します。

Q
収益が出ていない不動産は、やはり早めに売却した方がよいのでしょうか?
A

収益の有無だけで拙速に決めるべきではありません。
維持費や税金の負担、建物の現状、将来ご家族が使う可能性、相続発生後の管理体制などを総合的に確認したうえで、「保有・活用・売却」のメリットとデメリットを客観的に比較して判断することが大切です。

Q
家族で不動産について話し合う前に、まず何を準備すればよいですか?
A

話し合いを具体的にするため、まずは客観的な事実を確認することをおすすめします。
具体的には、登記事項証明書、契約書、固定資産税の納税通知書、年間収支、修繕履歴、借入状況などです。
ただし、資料だけで結論を出すのではなく、「何を残したいのか」「何を負担に感じているのか」という家族それぞれの想いも、同じ判断材料として整理することが大切です。

まとめ

不動産の価値は、売却査定額や賃貸利回りという数字だけで決まるものではありません。

そこに住む人の想い、受け継ぐ人の暮らしと管理負担、地主と借地人など関係者の事情まで確認することで、そのご家族にとって何を大切にすべきかが見えてきます。

「建てる」「貸す」「売る」という結論を急ぐ必要はありません。

まずは、不動産の現状と、ご家族が大切にしたいことを整理する。そのうえで、複数の選択肢を比べ、話し合う順番を考えることが大切です。

不動産の答えを先に決めるのではなく、納得して選べる状態をつくることから始めてみてはいかがでしょうか。